
2018-01-02 : 更新
2006-11-26 : 更新
2005-09-29 : 作成
ここでは特許検索式作成の基礎について説明しています(2005・2006年作成時コンテンツをベースに古い内容を修正してアップ)。現在は調査対象技術の明確化、検索項目の組合せ、キーワードの選択、特許分類の選択の4ステップについて説明しています。後段のステップについてはまたおって更新する予定です。
なお、特許検索・特許調査手法について学びたい方は拙著『特許情報調査と検索テクニック入門―研究開発&特許出願活動に役立つ』や知財図書館>特許検索・特許調査掲載の書籍を参照してください。
ステップ1 – 調査対象技術の明確化
特許検索・特許調査を行う場合う、まず始めに調査設計をします。
調査設計とは、大きく
- 調査対象技術の明確化: どういった特許を調べるのか
- 検索項目の組み合わせ: どれくらいの件数を調べるのか(読むのか)
の2ステップに分かれます。
まず、ステップ1では、どういった技術を調べたいのか明確にします。実はここが非常に重要で、何で特許調査をするのか?どういった技術を知りたいのか、調べたいのか?を予めクリアにしておかないと、ステップ2で検索式を作成する場合に苦労してしまいます。
[ステップ1-1: 調査対象技術の明確化]
特許検索で検索可能な項目、つまり検索項目としては、
- 種別: 特許・実用新案
- 権利状況: 公開・登録
- 番号: 出願番号・公開番号・公告番号・登録番号
- 日付: 出願日・公開日・公告日・登録日
- 出願人・権利者
- 技術分野:キーワード・特許分類(IPC、FI、Fターム)
の6つがあります。ステップ1では、各検索項目について明確化します。この明確化した検索項目をもとにステップ2で検索式を作成します。
調査対象技術の明確化の例題として、パナソニックのお掃除ロボット搭載エアコン 開発ストーリーを読んで、上記6つの検索項目を洗い出して見ましょう。
[パナソニックのお掃除ロボット搭載エアコン]
種別: 特許
権利状況: 不明
番号: 不明
日付: 不明
出願人・権利者:パナソニック(松下電器産業)
技術分野:エアコン
つまり、
パナソニック(松下電器産業) の エアコン 関連の 特許
が調査対象技術となります。
現段階では技術分野がエアコン、という非常に幅広い対象となっています。そこで、さらにこの技術分野を2つの要素に分けます。
[ステップ1-2: 技術分野の細分化]
技術分野は技術分野 = 背景技術 + 技術的特徴
のように分けることができます。
先ほどのパナソニック(松下電器産業)のエアコン関連特許の例で言えば、
[パナソニックのお掃除ロボット搭載エアコン]
技術分野 | 背景技術 | 技術的特徴 |
---|---|---|
エアコン | エアコン 空気調和機 |
フィルタを自動的に掃除 |
のように分けることができます(上記の例では、技術分野と背景技術が同じですが、違う場合もあります)。
上記のように、
- 検索項目を洗い出す
- 技術分野を背景技術と技術的特徴に分ける
ことにより、調査対象技術を明確化します。
ステップ2 – 検索項目の組み合わせ
特許検索・特許調査を行う場合う、まず始めに調査設計をします。
調査設計とは、大きく
- 調査対象技術の明確化: どういった特許を調べるのか
- 検索項目の組み合わせ: どれくらいの件数を調べるのか(読むのか)
の2ステップに分かれます。
ステップ2では、ステップ1で明確化した調査対象技術に沿って検索式を作成します。
[ステップ2-1: 特許検索式パターン一覧]
特許検索式の基本パターンは基本パターン1 = 番号
基本パターン2 = 検索項目(書誌事項)
基本パターン3 = 検索項目(書誌事項) × 検索項目(技術分野)
基本パターン4 = 検索項目(技術分野)の4つです。検索項目(書誌事項)と検索項目(技術分野)は以下のとおりです。
検索項目
書誌事項関連検索項目
技術分野関連種別: 特許・実用新案
権利状況: 公開・登録
日付
出願人・権利者技術分野 特許検索式基本パターンの、それぞれの適用ケースを例示すると、
基本パターン1: 番号を知っており、その特定特許の内容を把握したいとき など
基本パターン2: ある出願人(会社)に関する特許出願動向を知りたいとき など
基本パターン3: ある出願人(会社)の、ある技術分野に関する全体的な特許出願動向を知りたいとき など
基本パターン4: ある技術分野に関する特許出願動向を知りたいとき などとなります。
検索式というと、大半の方はキーワードしか使用されません。しかしキーワードのみの特許検索では、ノイズやモレが発生する確率が高くなってしまいます。
- ノイズとは: 調査対象技術とは関連しない公報
- モレとは: 調査対象技術と類似している公報を検索でヒットさせることができないこと
上記4つの基本パターンのうち、どこでノイズやモレが発生するかと言えば検索項目(技術分野)です。検索項目(技術分野)においてノイズやモレをなるべく抑えた特許検索を行うためには、特許分類を利用・併用することが重要です。
[ステップ2-2: 検索項目(技術分野)の検索式基本パターン一覧]
検索項目(技術分野)の特許検索式の基本パターンは以下の3つです。
- キーワードのみ
- 特許分類(IPC・FI・FタームやCPCなど)のみ
- キーワードと特許分類の併用
キーワードのみも基本パターンとして含めていますが、オススメはできません。検索項目(技術分野)の検索式としては2.特許分類(IPC・FI・FタームやCPCなど)のみ、または、3.キーワードと特許分類の併用が良いでしょう。
ステップ1、ステップ2を踏まえた上で、下記のような検索式作成テーブルを完成させましょう。
背景技術 (≒技術分野) |
技術的特徴1 | 技術的特徴2 | |
---|---|---|---|
キーワード | |||
同義語 | |||
IPC | |||
FI | |||
Fターム | |||
CPC |
ステップ1-調査対象技術の明確化で取り上げたパナソニックのエアコン関連特許の例で、検索式作成テーブルの各セルを埋めてみましょう。
背景技術 (≒技術分野) |
技術的特徴1 | 技術的特徴2 | 技術的特徴3 | |
---|---|---|---|---|
キーワード | エアコン | フィルタ | 自動 | 掃除 |
同義語 | クーラー 空調 空気調和 |
ろ過 濾過 こし器 |
オート | 清掃 クリーニング |
IPC | F24F | F24F13/28 | – | – |
FI | F24F | F24F1/00,371A F24F1/02,381A F24F11/02M |
– | – |
Fターム | 3L051 | 3L051 | – | – |
同義語の洗い出す方法や、特許分類を探す方法については次のステップで解説します。
ステップ3 – キーワードの選び方
特許検索式の調査設計 [ステップ2-2: 検索項目(技術分野)の検索式基本パターン一覧] において、読み込む特許件数(調査対象件数)の絞込みには、
- キーワード
- 調査分類(IPC・FI・FタームやCPCなど)
- aとbの組み合わせ
の3通りあると述べました。ここでは、
a. キーワード
の選び方について説明していきます。
よく本などを見ると「適切なキーワードを選びましょう」と書いてあります。「適切な」が分からないから苦労するわけで、何の説明にもなっていないですね . . .
さて、キーワードを選ぶ大前提として、調査対象技術について明確にしておく必要があります。
調査対象技術の明確化で書いたとおり、どういった技術を調べるのか予めクリアにしておかないと、いくらキーワードを一生懸命選んでも、いくら調査分類を一生懸命選んでも無駄になってしまいます。
以下、調べたい技術についてクリアになっているとの前提で話を進めます。
キーワードの選ぶ際に心がけることは、可能な限り網羅的にキーワードを集めるということです。
私の場合、以下の方法で網羅的にキーワードを集めます。
- 方法1) 上位概念の言葉を考える
- 方法2) 漢字、ひらがな、カタカナで置き換える
- 方法3) シソーラスを調べる
- 方法4) 英和辞書・和英辞書を使う
以下説明していきます。
方法1) 上位概念の言葉を考える
例えば味噌について調べたい場合、味噌の上位概念の言葉を考えます。
味噌の上位概念は発酵食品・発酵製品になります。
方法2) 漢字、ひらがな、カタカナで置き換える
方法1)と同様に味噌の例で考えます。
味噌は漢字、みそはひらがな、ミソはカタカナとなります。
以前にあったPATOLISのフリーキーワードのような表記が統一されているデータベースの場合は、漢字・ひらがな・カタカナの違いを考慮する必要はありませんでしたが、特許情報プラットフォームJ-PlatPatなどで検索する際は、明細書がそのまま掲載されていますので、漢字・ひらがな・カタカナの違いを考慮する必要があります。
方法3) シソーラスを調べる
シソーラスとは、
(1)語句を意味によって分類・配列した語彙集。類義語集をいう場合もある
(2)情報検索において,キー-ワードの示す範囲,キー-ワードと関連語の類似・対立・包含関係などを記述したリスト
三省堂提供「デイリー 新語辞典」より
という意味で、類語、と考えれば良いでしょう。
オンライン上で利用できるシソーラスは、
JSTシソーラスmap
類語辞典・シソーラス・対義語 – Weblio辞書
があります。個人的にはJSTシソーラスmapをよく利用しています。
方法4) 英和辞書・和英辞書を使う
英辞郎を始めとして、数多くの英和・和英辞書がWeb上で利用できます。キーワードを網羅的に集めるために利用します。
例えば本について調べたい場合、本は英語でbookなので英辞郎でbookと調べると、
【名-1】 本{ほん}、書籍{しょせき}、書物{しょもつ}、図書{としょ}、単行本{たんこうぼん}、教科書{きょうかしょ}、作品{さくひん}
と出てきます。本を調べたい場合は、
書籍、書物、図書、教科書
といったキーワードも含めた方が網羅的な検索ができます。
上記4つの方法はあくまでもキーワードを網羅的に集めるための例です。他にももっと良い方法があるかもしれません。
ただ、キーワードを集めるときは網羅的に、という原則は変わりません。
ステップ4 – 特許分類の選び方
特許検索式の調査設計 [ステップ2-2: 検索項目(技術分野)の検索式基本パターン一覧] において、読み込む特許件数(調査対象件数)の絞込みには、
- キーワード
- 調査分類(IPC, FI, Fターム, ECLA, U.S.Classなど) –>特許分類へ
- aとbの組み合わせ
の3通りあると述べました。ここでは、
b. 特許分類
の選び方について説明していきます。
特許分類(ここではIPC・FI・Fタームを探す場合)を探す場合、特許情報プラットフォームJ-PlatPatのパテントマップガイダンス(PMGS)を使います。
もしも調査対象技術に関連する特許検索ガイドブック(インターネット資料収集保存事業(Web Archiving Project))があれば、わざわざパテントマップガイダンス(PMGS)で調べる必要もありません。事前にチェックしておきましょう。また工業所有権情報・研修館が発行している特許流通支援チャートにも「特許情報へのアクセス」という項目があり、IPC・FI・Fタームについて整理されています。こちらも特許検索ガイドブックと合わせてチェックしましょう。
ここではエアコンを例にとって、エアコン関連の特許分類の探し方・選び方について説明していきます。
まずパテントマップガイダンス(PMGS)のトップページに行きます。

パテントマップガイダンス(PMGS)は大きく
- 照会
- キーワード検索
- コンコーダンス検索
の3つから成り立っています。技術用語・キーワードからIPCを探し出すには2つ目の”キーワード検索”を使います。
キーワード検索は、

となっており上にキーワードを、下のサーチ範囲(分類)に分類コードやFタームのテーマコードを入れます。また調べる特許分類を上のラジオボタンで選択できるようになっています。
エアコンを例にとってIPC(最新版)を探していきましょう。
- キーワード:エアコン
- サーチ範囲:(空白)
- 照会画面 :IPC(最新版)
として、検索ボタンを押しましょう。すると結果が表示されます。検索結果は
H01M10/663 ・・・他のシステムが,エアコンまたはエンジンであるもの[2014.01]
となります(2018年1月2日現在)。また検索キーワードで用いたエアコンが赤太字になっています。キーワードでIPCを選ぶとは、IPCの説明・定義中に含まれるキーワード検索していることに他なりません。
この場合、確かに”エアコン”というキーワードでヒットしていますが、H01M10/663というIPCそのものはエアコンそのもののIPCではなさそうです。
エアコンの特許であっても、出願人が【発明の名称】に”エアコン”というキーワードを用いているとは限らない、また、エアコン関連のIPCの説明・定義に必ずしも”エアコン”というキーワードが含まれているとは限りません。このために検索式作成の基礎(3) キーワードの選び方で説明したような方法で、網羅的にキーワードを選ぶ必要があります。
今回は「エアコン」なので、ステップ3 – キーワードの選び方で説明した方法で同義語・類義語を調べると、
- クーラー
- 空調
- 空気調和
- 冷暖房(装置)
というようなキーワードがエアコン関連キーワードとして抽出できました。これらのキーワードを入力してIPCを調べてみると以下のようになります。
キーワード | 見つかったIPC・説明 |
---|---|
エアコン |
|
クーラー |
クーラー外で,凝縮,沈澱またはミストの生成を防止する装置(F28C1/14が優先)[3] |
空調 |
|
空気調和 |
|
冷暖房(装置) |
|
エアコンそのものに該当するIPCは「F24F」になります。他のIPCはエアコンそのものの特許分類ではなく、エアコン以外が主たるテーマとなっているからです。
IPCを探すときに難しい点は、
調べたい技術の用語「エアコン」 と IPCの説明文「空気調和」
が一致しないところにあります。だからこそステップ3 – キーワードの選び方で説明したように、網羅的な(=モレの少ない)特許検索を行うために、キーワードの類義・同義語を選ぶ、ことが重要となるのです。
追記:2019年11月
検索式作成の入門や実例として Patent Fast Report を参考にされるのも良いかと思います。