特許検索とは・特許調査とは

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2006-11-04 : 更新
2005-08-20 : 作成

なぜ特許検索が必要か

なぜ特許調査をするのでしょうか? 特許調査を行わないとどんな事態になってしまうのでしょうか? 仮想ストーリーから特許調査・特許検索の必要性について説明します。まず特許調査がなぜ必要なのか説明する前に仮のストーリーを読んでいただきましょう。

[あわれ特許調査をしなかったために・・・(仮のストーリー)]

中小企業イーパテント社において画期的な自転車が開発されていた
イーパテント社のA社長と画期的な自転車開発担当のBさんの会話

A社長 : B君、あの画期的な自転車の開発は進んでいるかね。
Bさん : はい、バッチリですよ。あと2ヶ月以内に商品化可能です。多分売れますよ、これは。
A社長 : そういえば、最近ちまたでは”特許、特許”と言っているが、現在開発中の製品は大丈夫なのかね。
Bさん : 特許っていうのは“高度な発明”についてなんで、大丈夫ですよ、気にしなくても。
A社長 : まぁ、そうは言っても不安はあるからな。我が社のような零細企業が万が一、他社の特許を侵害していたりしたら、取り返しがつかんぞ。
Bさん : まぁ、そう言われますと・・・
A社長 : せっかくの機会だから、ちょっと調査会社に頼んでみよう。
Bさん : それでは早速頼んでおきます。

(調査を依頼して1ヵ月後、調査結果が上がってきた)

Bさん : 社長、大変です!! あの大手のS社が我が社と同じような自転車の特許を出願していて、しかも権利化されています!!
A社長 : なんてこった。まさかあの大手のS社が出願しているとは・・・これじゃ製品は出せないな・・・
Bさん : 社長、申し訳ありません。開発前に他社の動向を調べていなかったばっかりに・・・

イーパテント社では自分達の開発していた自転車が画期的だと信じていました。そのため開発前に特許調査を十分に行っていませんでした。しかし、いざ商品化が目前に迫ったところで特許調査を行ったところ、イーパテント社と同様の技術について大手のS社が既に特許出願を行い、その特許が登録になっていました。

大手のS社が登録特許を押さえているところへ、イーパテント社が商品を市場投入すれば・・・それは特許侵害行為となります。他社の特許を侵害すると、多額の賠償金を払う必要がありますし、企業のブランドイメージを大きく損なう事になります。

それでは、イーパテント社が開発を行う前にしっかりと特許調査を行っていたらどうなっていたでしょう?

開発前に特許調査を行っていれば、イーパテント社が開発を行おうとしている自転車技術について大手のS社が既に特許出願を行っていることが分かりますので、S社の特許を回避するような技術に仕様を変更するか、イーパテント社が開発を行おうとしている自転車技術については見送るか、のいずれかを選択することになります。

※他に取り得る手段としては下記のような手段があると思います

大手S社の登録特許を無効化する資料(特許・技術文献)を探しておき
特許庁に無効審判請求を行い、S社の特許を無効化する
S社と交渉して、登録特許を有利な形でライセンスしてもらう
大手S社に登録特許のライセンスを申し込む
それでは、ここで特許調査・特許検索の必要性についてまとめてみましょう。

特許調査・特許検索の必要性は大別すると、

  • 二重投資を防ぐ
    • 他社が既に特許出願している技術を把握することで、同様の技術開発を回避する
  • 他社特許の侵害を防止する
    • 他社が既に特許出願し登録している特許を把握することで、他社登録特許を侵害することを防げる

の2点に集約できるかと思います。

特許法第一条から特許調査・特許検索の必要性を考えてみましょう。

[特許法第一条]
この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

重要なところは発明の保護及び利用を図ることという部分です。

発明の保護を図ることは特許権者の権利を守るということ、発明の利用を図ることはこれまでなされてきた発明(=特許公報として発行されている発明)を利用して技術開発を行うこと、を意味しています。

特許調査を行わずに、研究開発・技術開発や製品販売を行うことは、非常に危険であることを認識する必要があります。

※他に特許調査・特許検索の必要性としては、特許出願に掛かる費用を減らす、も考えられます。特許出願前に先行例がないかチェックを行い、類似した技術について既に出願されていれば出願を取りやめることで出願費用を低減することができます(もちろん先行例調査に費用が掛かりますが・・・)。類似した先行例が見つかり出願を取りやめた場合であっても、他社が出願して権利化してしまう恐れもありますので、その取りやめた技術について何らかの手段で公知化しておくと良いです。

 

特許から得られる情報

 

なぜ特許検索が必要かでは、特許検索・特許調査は研究開発の二重投資を防ぐ、他社権利の侵害を防ぐ、という2点のために必要であることを述べました。

上記の2点は特許情報の持つ2面性 -技術情報であると同時に権利情報でもある- を反映しています。つまり特許調査の必要性と特許情報の持つ2面性を対応させると下記のようになります。

  • 技術情報 : 研究開発の二重投資を防ぐ
  • 権利情報 : 他社権利の侵害を防ぐ

上記で述べている特許調査の必要性は、どちらかといえばディフェンシブ(守り)な考え方です。つまり研究開発、製品開発、製品販売のそれぞれの前段階において可能な限りリスクを低減しようという考え方です。

しかし、特許情報の持つ技術情報としての側面に着目すると、特許調査を行う積極的な目的が見えてきます。

特許には技術の開示資料としての側面があると述べてきました。特許以外にも学会誌・論文、各社の技報・テクニカルレポートなど技術の開示資料はありますが、特許に着目する理由としては、Patent Information (PATLIB Network)に書かれている

  • 世界中の技術情報の80%以上が特許文献に記載されている
  • 言い換えると、特許文献に記載されている約80%の技術情報は他の技術開示資料(業界誌や学会誌・論文など)では発見することが出来ない
    [出所 : Patent Information (PATLIB Network)]

ことが挙げられます。

他の理由として、学会誌・論文などと比べると特許の方が公開されるのが早い、と言われています。特許は出願日(または優先権主張日)から18ヵ月後に特許公開公報として発行されますが、学会誌や論文は査読が入るため発行されるのが遅くなる傾向にあるようです(下記注参照)。

注) 管理人の主観になりますが、特許の方が学会誌・論文よりも早く公開されるとは言えないと思います(その事実を証明するデータが手元にないためハッキリとは言えませんが)。管理人も大学院時代に1本査読付き論文を投稿したことがありましたが、論文投稿日から発行されるまでに18ヶ月は経っていなかったと記憶しています。

特許が技術情報として非常に重要であることは分かりました。それでは特許調査をすることでどのようなことが分かるのでしょうか?

  • 自社で注目している技術分野の趨勢が分かる
  • どの技術分野が注目されているのかが分かる

上記2点についてはマクロ的な技術動向を把握することになります。

  • ある技術についてどのような課題があるのか分かる
  • ある課題に対してどのような解決手段が用いられてきたのか把握できる

例えばドアの開閉機構について研究開発しようとした際、これまで出願公開されているドア開閉機構に関する特許を調べることで、ドア開閉機構ではどのような点が課題となっているのか、またその課題に対してどのような方法で解決を図ってきたのか、が分かります。事前に調べておくことで、他社がこれまで注目していなかった課題を発見したり、他社がこれまで用いなかった方法で課題を解決することができます。

次に、出願人・権利者、発明者に着目すると以下のようなことが分かります。

  • 出願人・権利者に注目
    • ある特定の技術分野におけるリーディングカンパニーが分かる
    • 企業の共同研究先が分かる
  • 発明者に注目
    • ある特定の技術分野におけるキーパーソンが分かる
    • ある企業の特定技術分野における開発規模(どれくらいのヒトを投入しているか)が分かる

これは技術情報というよりは技術マーケット情報といった方が正確かもしれません。

他に、

  • 自社で開発した技術のライセンス先を探したい
  • アライアンス先を探したい

といったニーズも特許情報を利用することで満たすことができます。まず自社開発した技術がドア開閉機構だと仮定します。ドア開閉機構に関する特許を収集して、その収集した特許の出願人・権利者のランキングを出します。特許出願件数が多いということは、それだけその分野で研究開発を積極的に行っていると推測できます。よって、ランキング上位の出願人・権利者(企業・研究機関など)がライセンス先・アライアンス先の候補として挙げることができます。

※特許出願件数の多寡と同時に、上位出願人の特許出願件数の時系列推移を見ることも必要です。最近の特許出願件数が低調な場合は、昔積極的に研究開発を行っていたが、現在は事業から撤退してしまった可能性があります。