e-patent > コラム > 身近な特許・意匠 > キリン「のどごし生」の特許技術”ブラウニング製法”

作成 : 2008.12.28

 

CMにぐっさんとチュートリアルが出演しているキリンの新ジャンル醸造酒「のどごし生」。CMの10秒目付近にブラウニング製造(特許技術)である旨が表示されています。

 

今回はこのキリンのブラウニング製造について紹介しようと思ったのですが、実は「のどごし生」のウェブサイトで特許の内容について紹介されていました。

 

というわけで、今回の身近な特許ではこのブラウニング製法特許第3836117号の内容を紹介するとともに、この特許を例にとってパテントファミリー調査とキリンの海外特許出願戦略について考えてみたいと思います。

 

まずはブラウニング製法の特許第3836117号について内容を見ていきましょう。
 

【発明の名称】色度、風味に優れた発酵アルコール飲料、及びその製造方法
【出願番号】特願2005-31154
【出願日】平成17年2月7日
【公開番号】特開2006-191910
【公開日】平成18年7月27日
【審査請求日】平成18年3月24日
【特許番号】特許第3836117号
【登録日】平成18年8月4日
【発行日】平成18年10月18日
【優先権主張番号】特願2004-364837
【優先日】平成16年12月16日
【優先権主張国】日本国(JP)
【早期審査対象出願】
【特許権者】麒麟麦酒株式会社

【要約】※公開特許より
【課題】 ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料、及びその製造方法において、ビール様の自然な色度や風味を付与した発酵アルコール飲料、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整することにより、カラメルのような着色料を用いることなく、ビール様の自然な色度や風味を付与した発酵アルコール飲料を製造することができる。本発明の発酵アルコール飲料の製造方法は、特に、制限された発酵原料の使用のために、発酵アルコール飲料の色度や風味の補強が必要な発泡酒やその他の雑酒において適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整することを特徴とする発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
タンパク分解物が、該発酵アルコール飲料の製造において窒素原料として用いられるタンパク質の分解物であることを特徴とする請求項1記載の発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
タンパク分解物が、大豆タンパク分解物であることを特徴とする請求項1又は2記載の発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
糖とタンパク分解物とのメイラード反応の反応温度が、105℃以上、121℃以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
糖とタンパク分解物とのメイラード反応物を、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に添加することを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
発酵アルコール飲料の製造工程において、発酵工程前に、反応温度105℃以上、121℃以下を用いた原料中の糖とタンパク分解物とのメイラード反応物生成工程を挿入することを特徴とする請求項1~4のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
発酵アルコール飲料が、発泡酒又はその他の雑酒であることを特徴とする請求項1~6のいずれか記載の発酵アルコール飲料の製造方法。

 

請求項1では「発酵アルコール飲料」の製造の際に、

 

糖 + タンパク分解物とのメイラード反応物・調製物

 

を用いることが特徴となっています。ちなみに、メイラード反応とは

 

【0009】
一方、食品等に含まれる糖と遊離アミノ酸との反応として、メイラード反応が知られている。メイラード反応は、食品等の調理や製造に際して、調理やロースト或いは焼成のように高温が加えられた場合に、食品等に含有される糖と遊離アミノ酸との間に起こる反応であり、該反応によって生成されるメイラード反応物は、食品等に色や芳香を付与する。メイラード反応物は、該反応物の特性を利用して、食品等にフレーバーを付与するために使用することが知られており(特表2004-511241号公報)、また、特殊な用途として、食品等に利用される抗酸化剤として用いることが知られている(特開昭56-166286号公報)。しかしながら、該反応物を発酵アルコール飲料の風味や色の積極的な付与のために直接的に用いることは知られていない。

 

という反応です。つまり上記の式の中のタンパク分解物は「大豆タンパク分解物」であると請求項3で書いてあるので、

 

糖 + 大豆タンパク分解質のメイラード反応物・調整物(=大豆ペプチド+アミノ酸)

 

となります。これらを用いて「ビール様の自然な色度や風味を付与した発酵アルコール飲料」を製造するわけです。

 

さて、話を少し変えて世界のビール消費量ランキングで日本が何位か知っていますか?

 

ビール酒造組合のウェブサイトに国別ビール消費量の統計データが掲載されています。

 

これを見ると日本は全世界で6位のビール消費国。トップはダントツで中国です。

 

日本は先進国であり、人口もこれ以上爆発的に増加することはないと考えられます。そうすれば、ビールメーカーはビール消費量の多いところへ進出して売り上げ・利益を伸ばそうとすることは必然です。

 

今回取り上げたようなビール・発泡酒でもない第3のビール(雑酒)についても、中国やアメリカ・ヨーロッパへの商品展開を考えているかもしれません。

 

それを確認するために、この特許のパテントファミリー(対応特許)を調べてみました。

 

※パテントファミリーについて知りたい方はe-Patent Search.netにまとめてあります。

パテントファミリーをヨーロッパ特許庁データベースespacenetで調べると、

 

 

  • AU2005314750 (A1) — 2006-06-22
  • CN101084301 (A) — 2007-12-05
  • EP1840202 (A1) — 2007-10-03
  • JP2006191910 (A) — 2006-07-27
  • JP2006217928 (A) — 2006-08-24
  • US2008102161 (A1) — 2008-05-01
  • US2008118601 (A1) — 2008-05-22
  • US2008187644 (A1) — 2008-08-07
  • WO2006064919 (A1) — 2006-06-22

 

のようになりました。今回紹介した特許は公開番号で特開2006-191910です。

 

このパテントファミリーを見ると、日本にももう1件の対応特許・特開2006-217928が出願されており、その他オーストラリア(AU)、中国(CN)、欧州(EP)、米国(US)に出願していることが分かります。

 

このブラウニング製法特許の流れを整理すると、

 

 

  • 特願2004-364837 出願日:2004.12.16 (親出願)

 

が一番最初の出願です。その後、この出願を国内優先で取り下げ、

 

 

  • 特願2005-031154 出願日:2005.2.7 (優先:特願2004-364837)
  • 特開2006-191910 公開日:2006.7.27
  • 特登3836117 登録日:2006.8.4

 

 

  • 特願2006-145940 出願日:2006.5.25 (優先:特願2004-364837、分割:特願2005-031154)
  • 特開2006-217928 公開日:2006.8.24
  • 登録なし

 

になります。ブラウニング製法のもう1つの日本特許は特登3836117の分割出願です。

 

さて、この後に海外特許出願へ移っていきます。

 

大元のである特願2004-364837と特願2005-031154を基にしてPCT出願を行っています。

 

その後、翻訳文を提出して各国へ移行していきます。この移行状況についてはespacenetのINPADOC legal statusでも見ることができます。またWIPO・Patent ScopeのNational Phaseで見ることができます。

 

これまでの流れを整理すると、

 

  • WO2006064919 (優先:特願2004-364837,特願2005-031154)
    • AU2005314750
    • CN101084301
    • EP1840202
    • US2008102161
      • US2008118601 (US2008102161の一部継続出願)
      • US2008187644 (US2008118601の継続出願)

 

 

のようになります。米国出願については、もともと内容(WO2006064919)では少し足りないと判断したため一部継続出願にしたのではないかと考えられます。

 

もともとのブラウニング製法の話からだいぶそれてしまいましたが、このようにパテントファミリー・対応特許を見ることで、キリンが「のどごし生」を米国や中国・欧州そしてオーストラリアで販売しようとしているのではないか、と推測することができます。

 

オーストラリアはビール消費量が特に多い国ではありませんが(国別ビール消費量)、米国や欧州へ本格的に市場投入する前の市場テストを行うのではないでしょうか?(あくまでも私の勝手な推測です)